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北里義之 拡張する身体ネットワーク──新井陽子「焙煎barようこ vol.3」with 武智博美 (公演日:2016年11月16日)



拡張する身体ネットワーク──新井陽子「焙煎barようこ vol.3」with 武智博美
(公演日:2016年11月16日)

 喫茶茶会記におけるピアニスト新井陽子の定期公演「焙煎barようこ」は、本年度3回おこなわれ、舞踏の武智博美をゲストにした今年最後の公演「残照の後で after the afterglow」をもってしめくくられた。コンテンポラリー・ダンサーのjouをゲストにした前回の「焙煎」公演(7月20日)は、クレジットになかった南アフリカ出身のギター奏者アンドレ・レンスブルグを加えたセッションとなり、その後「YJAトリオ」として再演する展開をみせている。異質なパフォーマーのネットワークを身上とする「焙煎」の守備範囲は、木村由との交流を皮切りに、ダンスの世界にも視野を広げつつあるようだ。

 上手側の壁に寄せられた茶会記のアップライトの位置では、ピアニストがダンサーの動きを見ながら演奏することができないこと、また音楽のうえでも、即興的な対話をするために、お互いの距離を保つことが必要になるといった事情から、新井の演奏には、これまで共演者とつかず離れずの部分をもちながらセッションするという印象があった。過去のダンスとの共演では、演奏家自身がピアノを離れて小物楽器を演奏したり、自分も身体的に動くという方法でパフォーマンスの拡大を図っていたが、この晩の新井は、これまでとは真逆の方向からブレイクスルーした。公演冒頭、あらかじめボードを外してあった楽器の足もとに潜りこんだ新井は、ピアノ線を直接はじく内部演奏からスタート。これは演奏の趣向でもあったが、同時に、可能なかぎり体勢を工夫して共演者を見つづけようとする努力でもあり、その結果、踊る以上に音をよく聴くダンサーを積極的に触発し、また触発されるような一体的なパフォーマンスが実現したのである。特筆すべきは、博美が床を這いまわる場面で、新井がほとんど狂気の一線に触れながらピアノを鳴らしまくるといった演奏を聴かせたことだろう。こんなにはじけた新井の演奏を聴くのは前代未聞だ。まるで演奏家が消え去り、音そのものと化したような演奏だった。

 武智圭佑と組んでいるノイズ+ダンスのユニット“mangna-tech”では、武智の激しいダンスに、静かな内面の動きを対置してバランスをとることが多い博美だが、このセッションでは、椅子に座って両脚を動かしたり、背後からピアニストに接近したり、照明を外れて観客席の間近に立つと静かに床に沈んでいき、そのまま床を這いまわる動きに移行していくというような、いつになく緩急差の大きなダンスをくりひろげた。黒いヴェールでおおわれた顔には、荷物を梱包するように赤い紐が巻きつけられ、博美の人形めいた動きをさらに不穏なものにしていた。踊りのどこかで顔が解放されるクライマックスを待ったが、その瞬間はとうとう最後までやってこなかった。音を全身で受け止めながらも、動くときは演奏と少しずれながら踊りのポジションを確保していく姿に、即興セッションの強者ぶりをうかがわせた。■

(2016年11月24日 記)
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