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振り切れる針のように   ──川村美紀子『12星座にささぐ』第2回「みずがめ座」2018/2/21(fri) 北里義之




 先月、ダンサーの誕生月からスタートしたマンスリー公演『12星座にささぐ』の初回は、山羊が天に昇って星座になったギリシャ神話のいきさつを映像入りで解説したり、ショパンのピアノ曲で踊ったりと盛沢山の内容で、予定された時間を大幅にオーバーする熱演となったが、今回は構成をシンプルにしたぶん、ダンスに集中して見ることができた回となった。水瓶座といえば、ファーストキスをした相手の星座という流れで、自衛隊入隊、逮捕、風俗店店員と波瀾万丈の生活を送っている(らしい)その男性を呼びだして近況をたずねる食事会を決行、その際に収録した会話の録音とビート音楽をサンドイッチにしながら、音楽が流れるたびにダンスを変え、次第に速度と切れのある展開をつけていくというのが基本の内容。

 会話が流れる場面でも、細かい、日常的な動きのような、ダンスになり切らない動きがつけられ、最後には、舞台を半円に囲んで置かれた最前列のざぶとん席をでんぐり返しでまわってスペースを拡大、低い姿勢でくりかえされる床への転倒で踊った。スイッチされる二種の音響の間では、何枚かのシートにメモ書きしたテクストを、周囲の空気を響かせるようなドスの利いた川村節で絶叫したり、デートに持参したお弁当を「じつはそれ私のママが作った唐揚げなんです」と、いまさらながらカミングアウトする場面も。最後には「あれから10年がたった私は、みずがめ座の男と恋に落ちないと決めた」というオチのセリフが用意されていた。星座が地上にたたき落とされてもみくちゃになった印象だが、今後のシリーズ公演では、逃れられない状態で彼女の運命に関わった人たちが次々に登場してくるのかもしれない。

 川村美紀子のダンスや作品をどう理解したらいいのか、実をいうと、私にはまだよくわかっていない。そもそもの話、他人の身体によって踊られるダンスを見ること自体、(複雑な要素がからみすぎていて)半分はわからないと考えておいたほうがいいように思うのだが、それにしてもわからない部分が多い。だから魅力的ともいえるのだろうが、個室に招かれたような至近距離からダンサーを見る月例公演『12星座』を通して、その謎に少しでもせまれたらと思う。「みずがめ座」公演では、ダンスに限られない動きのなかで、そこだけ浮き出したように際立つ身体がふたつ飛びこんできた。

 そのひとつは(1)オレンジ色の縁どりがある、丸くて低いスツール椅子に腰をおろし、怒鳴りつけるような、叫びそのものというべき声を爆発させておこなわれる朗読を越えた朗読、川村のダンスではおなじみの声のスタイルで公演をスタートさせた冒頭部分で、つま先立った両脚の指先が大きく開き、全開になったこと。彼女があの叫びを叫ぶとき、身体は戦闘体勢といってもいいマックスの状態に置かれることがわかる。もうひとつは(2)アニメーションの技法を含む高速度のダンスが踊られる中間部で、一瞬足さばきがスローモーションになったようにゆっくりとなること。これによって高速度の動きがより強調されるのだが、ダンスはそうした対比を踊っているのではないようで、むしろ高速度の動きのベースになる堅固な身体が、速度の隙間を縫って、たまたま動きの表面に浮き出てきてしまったというような印象だった。高速度の動きと、低速の、安定したバイオリズムが並走していく身体の構造は、音楽の即興演奏でもよく見られるものだ。ゆっくりとした身体のバイオリズムが感じられていることが、高速度の演奏やダンスを、正確なもの、必然性のあるものにしていくということなのであろう。

 より大枠の話で、今回もうひとつ気づくことのできた重要なポイントがある。それは川村の身体の指向が、あるマックスから対極のマックスへと振り切れながら動き、反転をくりかえしていくことをダンスにしているという点である。わかりやすさに配慮して、ふたつのマックスを「M衝動」と「S衝動」と仮称してみることにする。このことは身体の使い方はもちろん、作品作りする際のドラマツルギーにも大きく反映され、たとえば、ダンサーがほとんど動くことのなかった『まぼろしの夜明け』(2015年10月、三軒茶屋シアタートラム)東京公演などはその見やすい一例であるし、先頃おこなわれた「異端×異端」シリーズにおける『或る女』(2017年10月、日暮里d-倉庫)でも、古風な「或る女」=祖母の手紙と、若い「或る女」=川村自身からするその手紙へのありえなかった返信という設定で、ほとんど機械的に交代していくふたつのキャラクターをステージに登場させながら、ダンスにおいては反転する身体のありようをステージに乗せていた。今回作品に登場した「みずがめ座の男」に対しても、自身を無にするような恋愛と激しい拒絶とをスイッチさせ、M衝動とS衝動の往復を踊ったと思う。いずれの作品でも、川村固有の身体的特質に発するドラマツルギーといえるだろう。


(観劇日:2018年2月21日)


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