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<ダンス+音楽>の接近戦──細川麻実子×森重靖宗『愚(おろか)』 北里義之



<ダンス+音楽>の接近戦──細川麻実子×森重靖宗『愚(おろか)』
北里義之


 2008年から2016年にかけ、沼袋の「OrganJazz倶楽部」を会場にして、舞踏の岡佐和香とピアニストの清水一登がホスト役となり、各回、多彩なゲストを迎えるダンス+音楽「たのしいの◎んだふる」が隔月開催されていた。この<ダンス+音楽>シリーズのプログラム作成に関わっていた竹場元彦が主宰する「メノウ東京」の企画のうち、ダンサーの細川麻実子にスポットをあてた公演の3回目が、チェロの森重靖宗をゲストに迎え『愚(おろか)』のタイトルで開催された。今回はダンサーにとってこれまでになく狭いスペースとなる喫茶茶会記が選ばれた。踊り手の背後には縦格子の壁が迫り、立って数歩を歩くくらいという会場での集中したセッション。他の企画でこの場所をすでに経験していたせいか、細川のダンスは、場所の狭さをものともせず、後半になって初めて壁を使ったダンスを見せるなど、前半と後半を通して構成される全体の流れに配慮しつつ、小さな動きにもダンスのダイナミズムを失わない芯のある踊りを踊った。どんな条件下でも踊りが小さくならないのはさすがと思わせる。

 前後半で演奏にメリハリをつけるため、第一部でピアノを弾いた森重は、最高音をヒットしたり最低音をヒットしたり、鍵盤にそっと指の腹を乗せたり、両手を大きく開いて楽器に突っ伏したりと、ピアノを打楽器のように扱いながら、楽曲を演奏するというより、楽器の触れ方によって様々に生み出されてくるサウンドをインスタレーションして遊ぶような、パフォーマティヴな演奏を展開した。上手の壁に向かうアップライトの位置から、ダンサーに背中を向けて演奏することになるため、出だしはそれぞれのパフォーマンスを交代していく形でスタート、進行するに従ってダンスと演奏がしだいに重なっていくという、気配を感じながら共演するスタイルがとられた。森重の演奏スタイルは、まるで背中が独立して踊っているようにユニークなもので、ダンサーがつられて似たような動きをしてしまう興味深い場面も見られた。こうした条件が影響してであろう、セッションの第一部は、細川が受けにまわって踊るような印象があった。ダンサーが床に倒れこんで動かなくなったのを合図に暗転。前半が終了。

 楽器をチェロにかえての第二部は、かすかに奏でられる微音から、特殊奏法でノイズを発生させながら奏でられるメロディまで、さまざまな演奏法を駆使しながら、音楽を次第に大きなものにしていく森重ならではの世界が展開した。瞬間瞬間に全身没入しながら演奏するのが身上の森重だが、このセッションではずいぶん構成感のある演奏をしたと思う。かたや、後半になって一気に攻めに転じた細川は、くりかえされる演奏家への接近と、立ったポジションからのダンスはもとより、膝立ちや足を投げ出しての座位など多彩な展開をみせ、演奏家の前に身体を投げ出すようにして、高低さまざまな関係を取り結びながら共演者にアプローチした。とはいえ、激しい演奏に大きな動きで応ずる場面が、演奏のクライマックスを形成することがなかったのは、そんなふうに動きの対応が単調に、あるいは予定調和的になってきたと感じると、どちらかがかならず方向性を転じ、気合いをずらしていたためと思われる。第二部は、ダンサーが足を投げ出して床にすわると、前にあげた両手の指をふるわせはじめ、次第に肩先から上体へとふるえを拡大してから、右足を左もものうえにあげて両手で抱えたところで終演となった。それぞれのスタイルが組みあったセッションのなかで、後半で演奏に身をまかせて感情開放する踊りが見られたのは予想外だった。つねに冷静かつ理性的なダンサーである細川からもこうした感応力を引き出すのが、森重のチェロ演奏の深みと思う。

(観劇日:2018年3月25日)

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